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大阪地方裁判所 平成3年(わ)4166号 判決 1994年7月15日

本店所在地

大阪府堺市中之町東四丁三番五号

有限会社

販売企画センター

(右代表者代表取締役 山本克己)

本籍

大阪府堺市陶器北三九一番地

住居

大阪狭山市今熊七丁目三三〇番地の一 オリエント狭山アーバンコンフォート八〇一号

会社役員

山本克己

昭和二三年八月一九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官八澤健三郎出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社販売企画センターを罰金五〇〇〇万円に、被告人山本克己を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人山本克己に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用のうち、証人峠平治、同出雲正に支給した分の各三分の二及びその余の訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社販売企画センター(以下、「被告会社」という。)は、大阪府堺市中之町東四丁三番五号に本店を置き、不動産売買及び仲介業等を営む資本金一〇〇〇万円の有限会社であり、被告人山本克己(以下、「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた者、松崎茂は、被告会社の総務部長を自称してその業務に携わるとともに、株式会社日生(以下、「日生」という。)の代表取締役をしていた者であるが、被告人は、右松崎と共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、平成元年四月一四日から平成二年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が三億一〇万六六三〇円、課税土地譲渡利益金額が三億一三五七万九〇〇〇円で、これに対する法人税額が二億一三三〇万九四〇〇円であるにもかかわらず、株式会社出雲建設から兵庫県津名郡北淡町生田大坪字中ノ瀬ノ上五九五-一ほかの宅地の販売委託を受け手数料収入を得たことに関し、右委託は日生が受けたごとく装い、被告会社は日生から企画手数料を収受したにすぎないとする虚偽の領収書及び日生名義の経理帳簿等を作成し、あるいは顧客から被告会社の銀行預金口座に振込送金された代金を日生名義の口座に移すなどし、右宅地の販売受託から生じた所得に対する法人税について無資産状態の日生名義で法人税確定申告書を洲本税務署長に提出するなどの行為により、その所得の秘匿したうえ、被告会社の前記法人税の納期限である平成二年五月一日までに大阪府堺市南瓦町二番二〇番所在の所轄堺税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、法人税二億一三三〇万九四〇〇円を免れたものである(別紙修正損益計算書及び別紙税額計算書参照)。

(証拠の標目)

<注>括弧内の算用数字は記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)記載の当該番号の証拠を示す。

一  被告人の当公判廷における供述

一  証人山田寛、同嶋敬介の当公判廷における各供述

一  第二、第三回公判調書中の証人峠平治の供述部分

一  第四回公判調書中の証人出雲正の供述部分

一  松崎茂に対する法人税法違反被告事件における証人山本克己の各証人尋問調書(第一二、第一三、第一五回公判)

一  被告人の検察官に対する供述調書一三通(63、64、66ないし76)

一  松崎茂(一六通、77、78、80ないし93)、峠平治、出雲正、山本富美子(三通)、松村こと竹下貴代美、瀧上武宣、梶田勇机、辛基秀、野島英昭、浅野邦直、天野節子の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の捜査報告書二通(1、131)

一  大蔵事務官作成の証明書(3)

一  大蔵事務官作成の査察官調書四六通(4、ないし47、106、107)

一  法人の登記簿謄本二通(2、94)

一  押収してある株式会社日生の領収書綴一綴(平成六年押第一九一号の1)及び株式会社日生の帳簿一冊(同押号の2)

(弁護人の主張に対する判断)

一  被告人及び弁護人は<1>兵庫県津名郡北淡町生田大坪字中ノ瀬ノ上五九五-一ほかの宅地(以下「本件宅地」という。)の販売委託による所得は、被告会社に帰属するのではなく、日生ないし被告会社と日生の合体した企業グループに帰属し、また、<2>被告人が法人税を免れようと企てたことはなく、さらに<3>被告人が松崎茂と脱税の共謀もしたこともなく、<4>虚偽の領収書の作成等の不正行為の事実やその趣旨を否認する等し、所得の帰属主体、脱税の犯意、共謀、不正行為等を争っているので検討する。

二  所得の帰属主体

所得の帰属主体については、1収益活動の行為者、収益金の入金額の管理や使途の処分行為者、2各種経費の支払行為者、支払名義、その経費の内容、支払資金の調達行為者等の要素を総合的に判断し、実質的に所得の帰属を決定すべきと解される。

(1)  そこで、まず、被告会社が出雲建設と本件宅地の販売委託をなした経緯をみると、第二、第三回公判調書中の証人峠平治の供述部分、第四回公判調書中の証人出雲正が供述部分、峠平治及び出雲正の検察官に対する各供述調書によれば、次の事実が認められる。

<1> 出雲建設の出雲正は昭和六三年一〇月ころ、同社の得意先であった阪和興業の松本から株式会社大成企画の代表取締役であった被告人を初めて紹介された。

<2> 被告人は出雲正に対し、当時本件宅地の所有者であった信用組合大阪弘容が本件宅地を売出しているので、出雲建設がその土地を購入し、その分譲販売を大成企画でやらせて欲しいと頼んだ。

<3> 被告人は梶田勇机と一緒に出雲建設を訪ね、分譲販売をやらせて欲しい旨頼んだが、出雲正は梶田についてはヤクザな感じを受けたので、梶田を交渉相手からはずして以後、被告人のみと接触したが、出雲正は被告人を信用していなかった。

<4> 出雲正は現地を見たりして、本件宅地を出雲建設で購入しようという気持ちになったが、信用の置けない被告人や被告人が代表者である大成企画に本件宅地の取得後の販売を委託する気にはならなかった。

<5> 出雲建設は平成元年二月一〇日ころ、前記大阪弘容から二億三五〇〇万円で本件宅地を購入したが、その際、出雲正は被告人に対し、大成企画に販売委託できない旨述べて断った。

<6> 出雲正は同年三月七日ころ、被告人に本件宅地の紹介手数料として梶田分を合わせ四五〇万円を支払い、それで手を引くように言って、販売委託の話を断った。

<7> 被告人は同年四月ころから出雲正に対し本件宅地の分譲販売をやらせて欲しい旨執拗に頼んできた。

<8> 出雲正は本件宅地の地形が保養所や研修所としては売れにくく、小さく区画して住宅として分譲販売するしかないことが分かったが、出雲建設が大々的に公募して分譲販売した経験もなかったことや、本件宅地を紹介してきた被告人を外して出雲建設だけが分譲販売で儲けたことになれば被告人が何を言い出すかわからないこと等結局被告人に本件宅地の分譲販売をさせることにした。

<9> 被告人は同月ころ、被告会社を設立しており、出雲正は出雲建設の業務課長である峠平治に被告会社を調べさせ、宅地建物取引業の免許を持っていることを確認したうえ、同年五月上旬ころまでには被告会社に分譲販売を委託させる旨約束した。

<10> ところが、被告人は同月上旬ころ、出雲建設に突然本件宅地の分譲販売を新聞公告に出すのに新聞社に必要だなどと言って、日生に本件宅地を譲渡する内容を売渡承諾書や覚書を持って来た。

<11> 出雲正は日生という会社の名前がこの時初めて出てきたうえ、本件宅地を日生に販売するというこれまでに全然話のない内容の文書だったことから、日生という会社について問い詰めた。

<12> 被告人は日生が本件宅地を販売していくのに税務対策上、便宜的に設立した会社である旨説明したので、出雲正らは資金や実体のない日生が被告会社のためのペーパー会社だと理解した。

<13> 出雲正は実体もないような日生に本件宅地を譲渡する考えはなく、いきなり前記のような承諾書等を持ってきた被告人に腹が立ち、被告人に文句を言って、右書類を返した。

<14> 出雲建設では同月一一日ころ、顧問弁護士に前記売渡承諾書や覚書の問題点を相談し、出雲建設が不利な立場に立たず、販売委託をする相手が日生ではなく、被告会社であることを明確にする旨の販売代理に関する契約書の作成を依頼した。

<15> 出雲建設は顧問弁護士の助言を得て、同年八月八日ころ、出雲建設名義の販売委託契約書を作成し、被告会社の代表者を被告人の名前で特定し、さらに、被告会社の宅建業者の免許番号まで特定して明確にした。

<16> 出雲建設は同月一二日ころ、被告会社に本件宅地の販売を委託する際の契約文書である覚書を作成して被告人に交付した。

<17> 出雲建設は同月一五日までに被告会社から前記覚書に従った本件宅地の販売代金約七億七七〇〇万円と一部管理費等の清算を受け、被告会社宛の各領収書を発行した。

<18> 本件宅地の売買契約書及び重要事項説明書並びに本件宅地の購入者から徴収した金の預かり金処理に関する念書等には、販売代理者として被告会社が記載されているだけであり、日生は全く記載されていなかった。

(2)  次に、本件販売代理の契約及び手付金等の資金の流れをみると、大蔵事務官作成の査察官調査書二通(4、5)によれば、本件宅地の購入者は被告会社を販売代理人とする売買契約書を締結し、その手付金等を阪神銀行東浦支店の被告会社名義の普通預金口座に入金していたことが認められ、また、大蔵事務官作成の査察官調査書二通(106、107)によれば、本件宅地の販売代理によって獲得された受託手数料は被告会社名義の定期預金として留保されていたことが認められる。

(3)  そして、被告会社の資金調達、経費の支払、調達資金の返済についてみると、<1>辛基秀の検察官に対する供述調書によれば、被告人は平成元年四月から同年九月ころまで辛基秀から合計三〇〇〇万円を借り、同年一〇月と一一月で合計四五〇〇万円を返してもらったが、被告人は右辛に対し、サンケイ広告への発注資料を見せて、本件宅地を販売するのに必要な広告代ということで説明して借りたこと、<2>野島英昭の検察官に対する供述調書によれば、被告人は平成元年七月一日ころ、前記梶田勇机と一緒に大和住宅建設株式会社代表取締役野島英昭から、本件宅地を分譲販売するのに事務所をオープンし、従業員を雇い入れたりするのにお金がいるということで五〇〇万円を借り(なお、借用証の借主名義は日生の代表取締役松崎茂となっているが、右野島は日生も松崎も知らないものの保証人に被告人と梶田がなっており、利息も一〇〇万円位つけるということで借主が日生ということについてはあまり詮索しなかった。)、同年九月二九日ころに二〇〇万円、同年一一月二二日ころに梶田を通じて四〇〇万円を返済したこと、<3>梶田勇机の検察官に対する供述調書によれば、被告人は梶田勇机に出雲建設を紹介してもらったり、一緒に前記大阪弘容等に行って交渉した礼金として五〇〇〇万円位をやる旨約し、昭和六三年六月と同年八月に合計七〇万円を、平成元年九月から同年一一月にかけて合計五四五〇万円の支払をなしたこと、<4>浅野邦直の検察官に対する供述調書によれば、被告人は浅野邦直から昭和六三年四月ころに四〇〇万円を借りたが、平成元年一一月に利息分も含めて六〇〇万円の支払を受けたこと、<5>天野節子の検察官に対する供述調書によれば、被告人は天野節子らから借りていた八〇〇万円位のお金を同月ころに利息分をのせて一〇〇〇万円を支払ったこと、<6>瀧上武宣の検察官に対する供述調書によれば、平成元年一〇月から同年一一月までに、営業外務員として瀧上武宣と目黒光一は合計一〇四二万円をそれぞれ受け取り、鈴木一は一〇四二万円より数百万円少ない額を受け取り、さらに歩合給は別に五〇〇万円をもらい、三人で分けたこと、<7>山本富美子の検察官に対する供述調書(55)によれば、平成二年二月に被告会社が本件宅地の分譲で得た利益の中から車二台を購入したが、これは分譲販売の現場に営業マンを乗せて往復する際や会社のお金の入金にあたって銀行に行き来する際の足がわりとして購入したことが認められる。

右各事実に、山本富美子の検察官に対する供述調書(55)、大蔵事務官作成の査察官調査書(6ないし44)を総合すると、被告人が被告会社の広告宣伝費等の各種経費の支払資金を調達し、それを概ね被告会社名義で支払い、本件宅地の販売代理によって得られた資金で当該調達資金の返済を行っていたことが認められる。

以上の事実によれば、被告会社が実質上も形式上も販売代理行為者であって、日生が販売代理者ではあり得ず、また、その販売代理による手数料収入も被告会社に入金され、被告会社の代表取締役である被告人が、その管理、処分を決定し、さらに被告人が販売代理に要した資金を借入等によって調達し、それを被告会社の経費として支出し、販売代理による手数料収入によって当該借入資金の返済に充てたり、預金として留保している事実が認められるから、実質的に所得を決定すべき要素である前記一の1、2の要素から判断しても、本件宅地の販売代理による所得は被告会社のみに帰属し、日生に帰属しないと認める。

被告人も捜査段階においては本件宅地の分譲販売においては広告企画から営業実務、アフターケアに至るまで、一切を被告会社が手掛けたものであり、分譲販売により得た出雲建設からの手数料等による利益はすべて被告会社に帰属するもので、日生に帰属するものではない旨述べていたものである〔被告人の検察官に対する供述調書(64、67)〕。

これに対し、被告人は当公判廷において、被告会社と日生が同一企業グループを構成し、あるいは、日生が被告会社の下請となっているから、本件宅地の販売代理による所得は両社に分属する旨述べるが、被告人は所得の分属という重要な事項について捜査段階において説明しておらず、また、当公判廷において何故、利益が双方に帰属することになるかについて十分な説明がなされず、曖昧な供述をなしており、捜査段階における具体的かつ詳細な供述に比べて信用できない。

三  脱税の犯意と不正行為

(1)  前記二の認定事実のとおり、本件宅地の販売代理に関する所得が被告会社に帰属することが認められるところ、大蔵事務官作成の証明書(3)によれば、日生の代表取締役の松崎が平成二年五月二日本件宅地の販売代理による所得を日生が申告する旨の法人税確定申告書を洲本税務署に提出したことが認められる。

(2)  証人山田寛の当公判廷における供述、松崎茂の検察官に対する供述調書(77)によれば、前記日生の法人税確定申告書は被告人が松崎に指示して作成させ、かつ、提出させたことが認められる。

(3)  ところで、日生の帳簿を作成した経緯及びこれを松崎に送付した経緯等をみると、被告会社に事務員である山本富美子の検察官に対する供述調書(53)、大蔵事務官作成の査察官調査書(6)によれば、次の事実が認められる。

<1> 松崎と被告人が平成元年春ころ、堺の事務所で大分にある別会社を淡路に引っ張って来て、税金をその会社に被せる話をしていた。

<2> その後、山本富美子は被告人から松崎が大分の会社を淡路に引っ張って来て移し、日生という名前にしたことを聞いたので、山本富美子が被告人にその名前の由来を聞くと、日本生命と関係のある会社に見えることを挙げた。

<3> 松崎が十二指腸を患って、平成元年十二月初めに大分に帰ったが、平成二年三月ころ、税金の申告書を提出することが話題になり出し、被告人は山本富美子に淡路の事務所で保管していた領収証や出金伝票を整理して日生の帳簿を作るように指示した。

<4> 被告人は、山本富美子に対して被告会社が日生から五六〇〇万円を受け取ったことにして税金を申告することにするので、適当に割り振って合計五六〇〇万円になるように領収証を作成するように指示し、企画料という名目にするように指示した。

<5> そこで、山本富美子は被告会社から日生宛の架空領収証五枚を作成し、日生の帳簿に載せるとともにこれに対応して被告会社の経費明細帳には収入として記載した。

<6> また、被告人は山本富美子に対し、大口の支払を抜き出し、その分について被告会社が日生から金を受け取り、日生に代理して支払をしたような書類を作るように指示した。

<7> そこで、山本富美子はサンケイ広告社への支払、出雲建設への土地代金の支払、木村司法書士に対する登記費用の支払といった大口の支払について、被告会社が代理して受領した旨の記載をした代理受領証を作成した。

<8> 松崎は、山本富美子が日生の帳簿を作成している時に、何回か堺の事務所に連絡して催促してきた。

<9> 山本富美子は同年四月、帳簿等の作成が終わったので送る旨松崎に連絡し、あとはよろしくと言ったところ、松崎「それはこっちできちんとしますから。」と答えた。

<10> 山本富美子は松崎の右言葉から山本の送付する日生の帳簿をもとにして適当に売上をへらしたり、経費を水増する等して所得を低くして税金が安くなるようにしてくれるものと思った。

<11> 被告人は、同年五月中旬ころ、送ってきた日生の申告書を見て驚き、「何のために松崎に四〇〇〇万円もやったかわからない。」と文句を言っていた。

(4)  また、大蔵事務官作成の査察官調査書(107)によれば、被告会社が販売代理によって収入金を仮名口座の預金等に留保していたことが認められ、瀧上武宣、松崎茂(84)の検察官に対する各供述調書、大蔵事務官作成の査察官調査書(106)によれば、被告人が被告会社の収入金を日生の収入金として見せかけるため、顧客から被告会社の口座に振り込ませた本件宅地の手付金等を日生の口座に移させたことが認められる。

(5)  さらに、松崎茂の検察官に対する供述調書三通(84、88、89)によれば、出雲建設が日生の販売代理を認めず、実質上も形式上も被告会社が販売代理をすることになった後、被告人が本件宅地の分譲のもうけを日生に入ったようにして、日生名義で申告するように頼んだこと、領収証の宛名は当初日生が表に出るということで日生宛にしてもらっていたが、その後も被告人の指示で日生宛にしたままであったこと、松崎は平成元年一〇月から同年一一月までの間、阪神銀行東浦支店の被告会社の口座に入金になった売買代金を同支店の日生名義に移し変えたこと、これは脱税のため売上金が日生の口座に入ったように仮装して本件宅地の分譲による売上が日生のものであるように装うために操作したものであることが認められる。

以上の事実によれば、被告人の脱税の犯意や不正行為とその認識については事実を推認でき、被告人も捜査段階において、日生で販売代理ができなくなり、再度検討し、松崎と相談した結果、税務申告については最初予定していたとおり、分譲による利益は日生の所得として申告し、被告会社は日生から企画料収入による所得のみを申告するということにし、松崎に税金を安く申告するように頼んだ旨述べていた〔被告人の検察官に対する供述調書(64)〕。

これに対し、被告人は当公判廷において松崎に申告を一任しており、松崎の方で許される範囲で適法に節税してくれると思っていた旨述べるが、被告人の検察官に対する供述調書(67)、大蔵事務官作成の査察官調査書(107)によれば、販売代理による売上金を被告人名義で預金していたのを、被告会社の申請前に解約して仮名預金等にして隠匿したり、前記のとおり、山本富美子に架空の領収証や代理受領書を作成させたうえで、被告会社の入金や支出を日生の収入や費用として日生の帳簿に載せさせたりしており、それ自体適法に節税してくれると思っていたという供述とは矛盾する不合理な行為であり、さらに、前記のとおり、松崎に被告会社の預金口座に入金させた手付金等を日生の口座に移し替えさせるとともに、被告会社に帰属していた所得を日生の所得として申告をさせており、仮に許される範囲の節税を松崎に任せていたとすれば、これらの行為は全く不要ということになる。また、被告人は通常のテント手当では考えられない四〇〇〇万円という金を松崎に交付していたのであるから、許される範囲の節税に対する支払としては高額すぎるということになり、この点からも、被告人の前記当公判廷における供述は信用できないことになる。

四  共謀

山本富美子の検察官に対する供述調書(53)によれば、松崎と被告人が平成元年春ころ、大分にある別会社に税金を被せる話をしていたこと、日生という会社を作ったこと、被告人が山本富美子に対し税金の申告について淡路の事務所で保管していた領収証や出金伝票を整理して日生の帳簿を作るように指示したこと、被告人の指示により架空領収証や代理受領証を作成したこと、松崎から日生の帳簿を送るように電話があったこと、山本富美子が帳簿等に操作を加えず送る旨言ったのに対し、松崎がそれはこっちできちんとする旨答えたこと、山本富美子は松崎のほうで適宜帳簿操作をすると理解したこと、被告人は松崎から送られてきた申告書を見て驚き、何のために松崎に四〇〇〇万円もやったかわからない旨文句を言ったことが認められ、共謀をうかがわせる事実であり、また、前記のとおり、松崎が被告人の指示により被告会社の預金口座に入金された手付金等を日生名義の預金に移し替える行為をしたことも共謀をうかがわせる事実である。さらに、前記のとおり、通常のテント手当としては高額な四〇〇〇万円という金額を松崎に渡しており、証人山田寛の当公判廷における供述によれば、山田寛は被告人や松崎が日生の所得を少なく申告しようとしていることがわかったので、松崎に帳簿を操作すると大変なことになると叱り、帳簿の操作を断った旨述べており、被告人と松崎が共謀をしたことを推認させる根拠となる。

被告人の検察官に対する供述調書(66)によれば、被告人が松崎に対し、平成元年三月ころ、税金のことを考えなければならないこと、被告会社が坪当り一万円で五六〇〇万円の企画料を日生からもらうことにして申告すること、あとは松崎のほうで税金が安くなるようにすること、現場に作る会社は松崎に任せること等を言ったところ、松崎がこれを承諾したことを述べており、五六〇〇万円の内容について述べているが、出雲正の検察官に対する供述調書によれば、「淡路島シーサイドリゾート北淡(仮称)事業計画書」において、約五五六五坪の有効販売面積として表示されており、かつ、すでに昭和六三年一〇月ころに右計画書を出雲建設に出していることも認められるから、被告人が右のような有効販売面積を基にして、一坪一万円を基準として五六〇〇万円の企画料収入として被告会社が申告することを考え出すことにも合理的根拠があり、右被告人の供述の信用性が高い。

これに対し、被告人は当公判廷において、共謀の点につき前記三と同様に松崎に申告を一任しており、松崎が適法に節税してくれると思っており、脱税を共謀したことはない旨述べるが、右で述べた理由及び前記三で述べた理由を合わせ考えると被告人の当公判廷における右供述も信用できない。

従って、被告人と松崎が共謀をしたことを認めることができる。

五  以上のとおりであるから、所得の帰属主体、脱税の犯意、共謀、不正行為等についての被告人及び弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するが、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用のうち、証人峠平治、同出雲正に支給した分の各三分の二及びその余の訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人及び被告会社に連帯して負担させることとする。

被告人の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示所為につき、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して、罰金額をその免れた法人税の額以下とし、その金額の範囲内で被告会社を罰金五〇〇〇万円に処し、訴訟費用のうち、証人峠平治、同出雲正に支給した分の各三分の二及びその余の訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告会社及び被告人に連帯して負担させることとする。

(量刑の事情)

被告人の本件犯行は、ほ脱額が一期で二億一三三〇万九四〇〇円と高額で、そのほ脱率も一〇〇パーセントと極めて高率であり、悪質な犯行と言わざるを得ない。被告人は捜査段階において、本件犯行の動機として、販売代理に基づく手数料収入に対しては土地重課制度等によって非常に重い課税になることに不満があったことや手元により多くの資金を残して事業資金等に使うつもりであったためである旨述べるが、土地重課制度は全ての法人が等しく適用される制度であるから被告人がそれに不満を抱く合理的根拠とならず、また、手元により多くの事業資金を残したいとの動機も、これらは本来税引後の内部留保資金によってなされるべきものであり、動機において特に酌量すべきとも思われない。そして、被告人は、ほ脱によって得た資金を架空名義の預金としたり、一時払い養老保険等に加入して留保していたものである。さらに、被告人は未だ本税及重加算税等を納付していない。

しかしながら、被告人は本件犯行を争っているものの捜査段階においては認めていたこと、自ら積極的に捜査に協力する等反省の態度を示していたこと、被告人には宅地建物取引業法違反、道路交通法違反による罰金前科があるだけで懲役刑の前科がないこと、被告人は本件により逮捕され一ケ月近く勾留されたこと、被告人には妻と二人の子供がいること等被告人に有利な事情として考慮し、本件ほ脱額が前記のとおり高額であり、当公判廷において本件犯行を争っているが、他の事件の量刑等も合わせ考え、被告人を主文の刑に処するもののその刑の執行を猶予して自力更生の機会を与えることとし、被告会社については主文の刑が相当であると思慮する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松下潔)

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書(土地譲渡にかかる譲渡利益金額計算書)

<省略>

税額計算書

<省略>

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